小説版ミッサーシュミット

文章を書くのが大好きなミッサーシュミットの小説の数々♡

休日と犬の睡眠薬⑧

 彼の限界が近付いて来たのを知り、慌ててしまう。私は今まで、この行為を、彼以外にしたことが無い。回数もそれほどこなしていないので、慣れていないのだ。

 私の戸惑い察した彼は、もういいよ、と、優しく言ってくれた。ホッとした反面、その言葉を、不思議に思う。じっと彼を見詰めると、もう一度言われた。

「もういいから」

 そっと唇を離した途端、呼吸が楽になった。

 殆ど唇を離さない、長いキスを受けている間に、またソファベッドに押し倒された。更に深く、舌を絡めようとした私を優しく突き放し、彼は、私の足に舌を移動させた。

 少し前まで、指が差し込まれていた場所に、彼の舌が入り込んだ。その温かさと、柔らかく繊細な動きに翻弄され、私は泣き声を上げる。焦燥感とも言えそうなむず痒さが、一気に足全体に広がった。昇り詰めたい、と懇願しようにも、言葉が出て来ない。気が狂いそうになりながら、ただ泣き叫ぶしかなかった。

 快感のツボを正確に責める、彼の舌と指の動きが、体中の至る所で、軽い痙攣を引き起こす。絶頂への近道を避けながら、執拗に焦らし続ける彼に対し、強い苛立ちを感じてしまった。

 どうして、そんな意地悪するの? 

 望みを叶えてれない彼。悔しくて、爪先で顔をを蹴飛ばしてやりたくても、足に力が入らない。夢中で彼を睨み付けたが、目が合った途端、急に怒りが萎えてしまう。

 体中の細胞が、活性化する。同じ所ばかり、強弱を付けて絶妙に刺激する指の動きに、徐々に慣れて来た。声を上げる回数は減っているが、快感のマグマは、体の奥で、噴出の瞬間を待ち続けている。半ば苦痛に変わり始めた快楽の渦に襲われ、頭の中が痺れ始めた。

 全身をくねらせて身悶えする私に気付いた彼は、一旦、動きを止めた。それでも動き続ける私の腰を、まじまじと見詰め、少しだけ、冷たく笑う。

「気持ちいいんだね」

 呼吸を整えながらそう言った後、私の頬に軽くキスして、床に手を伸ばした。

 床の上に脱ぎ捨てた黒いジーンズを引き寄せ、彼は、長い指で、ポケットをまさぐり、コンドームを取り出した。その用意周到さに驚きを隠せず、思わず絶句した。 

「今日は、いきなりしようと思ってたからね」

 私を安心させるように、そして、照れ臭さを隠すように、柔らかく、少し掠れた声で囁いた。

 理性を失いそうになっていても、きちんと避妊してくれることに、感謝すべきだろう。だが今、この瞬間だけは、ただ、焦らされているとしか思えなかった。実際は、三十秒にも満たない時間だった筈なのに。彼が、丁寧に袋を開ける音にさえ、欲情してしまう。そんな自分の浅ましさが、更に劣情を搔き立てた。

 

<続き>

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