小説版ミッサーシュミット

文章を書くのが大好きなミッサーシュミットの小説の数々♡

どうぞあの世で しあわせに!⑦

 これが私……?

 すぐには信じられなかった。若さも、美しさのかけらも無かった。

 容姿に対して、必要以上に奢った気持ちは抱いていないつもりだった。美容には、最低限の気配りしかしたことがない。美貌のお蔭で窮地から救い出された覚えも無いではないが、逆に、死ぬほど危険な状況に陥ったことの方が多かったので、単純に、美人で良かった、と思うことも少なかった。

 死に神のようになった自分を見て、初めて気が付いた。私は、奢っていたのだ。容姿や、立ち居振る舞いの美しさが、例え生来のものであったとしても、長い年月を経て尚、保ち続けることが出来たなら、周りの人々に、感謝しなくてはならないのだ。美しさというものが、失われやすく、非常に脆いものであるとは、今まで、考えたこともなかった。

 かなりの時間、鏡の前で放心していた。男が心配そうに訊ねてきた。

「大丈夫?」

 何か言えば、泣き崩れてしまうことは分かっていたから、黙って俯いた。

「悪いが、まだ話の続きがあるんだ。そのままでいいから、聞いててくれ」

 笑顔で答えようとしても、顔の筋肉が固まってしまって、ぴくりとも動かない。そっと目線を上げると、鏡が、一瞬のうちに姿を消した。

 今、私は、とても醜い。そう思うと恥ずかしくて、背筋を伸ばして立っていることが出来なかった。だが男は、何も気にしていないように、さっさと自分の席に戻って行った。

「じゃあ、これから、新しい生活のことを話そう。好きなのを選べばいいよ。まず一つ。これからすぐ、また生まれ変わるっていう道。今の記憶は、全く残らない。けどこれは、本当に、今決めないと、次のチャンスはいつ来るか分からないから、そこは考慮してくれ。ただ、何に生まれ変わりたいか、自分で決められるよ。とはいえ、ここでの記憶も無くなるけどさ。でも、満足度は保証付きだ。ちゃんと、データも取ってあるから。二つめは、俺と同じような仕事に就く道。俺も、元はあんたと同じ、人間だったんだよ。生きてた頃の記憶もあるにはあるけど、殆ど関係無いかな。要は、ここに来る人間の本質を正確に見抜いて、相応しい判決を出せればいい。あんたの時は、あの三人の中で俺が一番、適切な判断が下せそうだったから、他の2人は帰っちゃったんだよ。別に、一人につき一人っていう原則はないけど、今の所、何となくそうなってるな。ノルマは無いし、暇な時は自由に出来る。他の世界に出かけることだって可能だけど、ただあんまり無軌道なことやると、厳しい処罰が待ってる。あんたの受けた、禁固刑以上にね。あと、一人前になるまでは大変だよ。ありとあらゆる感情や経験を、身をもって味わう必要があるからさ、毎日が修行みたいなもんだな。嫌になったって、途中で、違う道に選び変えることも出来ないし。ただ、一旦裁判官になれば、辞めたくなったらいつでも辞められる。まあ、辞めた奴は見たことないけどね。自分が選んだからって訳じゃないんだけど、悪くないよ。糞真面目にやらなきゃ、ってことはないし……ねえ、俺の話、ちゃんと聞いてる? さっきから、全然反応しないね」

「いえ、ちゃんと聞いてます。すみません」

「まあ、いきなりで混乱するだろうから、仕方ないか。あのね、質問があったら、遠慮なくしてね。結構大事な話なんだからさ。分かった? そうか、ならいい。よし、次。三つめは、死後の世界を、暫くウロウロしてみるって道。人生を振り返ってみてさ、あの時こうしときゃ良かったとか、生きてる時は出来なくて、今も後悔してることって、何か無い? 言ってみりゃ人生のやり直しをやるんだな。もし会いたい人間がいるなら、探せば会えるかもしれないよ。その人が既に、生まれ変わってる可能性だってあるけどね。これは、次はいつ生まれ変われるか分からないけど、それでもいいって奴が良く選んでるよ。長い間、ずっと生まれ変わらないままの奴もたくさんいる。俺も随分迷ったけど、結局、今の道を選んだ。俺は生前、いわゆる政治の派閥争いに巻き込まれて、無実の罪を着せられた挙句、死刑にされかけたことがあったからさ。裁判に関わる仕事が、ずっと胸に引っ掛かってたんだ。ここなら、罪状を間違えることは絶対無いから、安心だしね。ただ、一人前になるまでに、人の二、三倍は掛かったんじゃないかな……途中やっぱり、迷いも出て来てさ、半端じゃなく辛かったけど、今は満足してる。いや、俺のことはいいんだ。どうする? 生まれ変わりたいなら、そんなに時間は無いよ」

 

<続き>

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